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8ef12717 :Anonymous
2011-03-20 23:00
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EiFYE原子力発電所
ここでは、原子力について、比較的よく質問される事柄を、元原発運転員の超個人的な知識に基づいて脱線しつつ長々と解説しております。
===「作業員が被爆して死亡する事故って?」
被爆により死に至るには約4000ミリシーベルト(50%の確率で死亡する数値)から7000ミリシーベルト(100%死亡する数値)を超える量の放射線を浴びる必要があります。
この量は法律で規制されている年間被爆総量50ミリシーベルトを遥かに超える値です。
事故でこれほどの被曝を強いられるのはやはりメルトダウンレベルの大事故と言う事になり、原子力発電所では『核燃料が原子炉格納容器内から漏れ出すほどの事態』にならなければ、まず致死量に至る事はありません。
逆にいうとチェルノブイリの場合は核燃料が露出したので致死量の被爆を受けたわけです。
さて、現実には通常運転中、放射線量の高いと言われる区域でも1時間で1ミリシーベルトを越えるような個所は少なく、そしてそれ以上の高線量区域は封印されて入れないようになっています。
また、定期検査などで原子炉格納容器に入る時は原子炉の運転が止まっているので臨界になっておらず、放射線量は少なくなっていますので、格納容器内でも致死量には程遠い状態です。
原子炉停止中に死に至るほどの被爆をするには、使用済み燃料貯蔵プールに故意に潜って露出した核燃料に直接接近して長時間居座る等の自殺行為をするしかないと思います。
そんなわけで、いままで国内の『原子力発電所』で高線量被爆によって死亡した人は居ないんですね。
核兵器による攻撃を受ける以外、JCOのように「臨界状態」になって、かつシールドも無く直接近くでそれを浴びない限りは致死量の被爆はありえないと言っていいと思います。
国内の原子力施設で初の被爆による死者が出たのが原子力発電所ではなくJCOだったと言う事も、放射線防護処置を行っている原子力発電所で被爆死することは起こり難いという事を示しているのかもしれません。
また、一部写真週刊誌などで原子力発電所作業で被爆して髪が抜けたという話が書かれる事がありますが、実際には髪が抜ける程の線量(少なくとも1000mSv(ミリシーベルト)以上)を浴びるのも困難です。
個人的にはそういった症状の人は精神的な理由で抜けているのではないかと思っているのですが・・・・
なお、多くの被爆をするという点では、致死量には至りませんが、原子炉内部の大規模な改造工事(炉心シュラウド交換作業など)を行う場合、その工程の中でも特に原子炉の水を抜いて炉の中に入って行う作業が最も被爆する作業だと思います。
その為、炉内作業は一人の人が長時間中に入らないで済むような作業手順を考案し、法律の規制値に達しないように管理して作業を行っています。
というわけで、放射線を浴びて死亡するというような事態は原子力発電所ではそう簡単には起こり得ません。
ただし、通常の運転中でも万が一蒸気配管の脇を歩いているときに蒸気配管が壊れれば死にますし、同様の事が油、水の配管でも言えます。
タービン発電機本体を始めとする大型のモーターや空調ファンなどの回転機がありますので、それらの回転部に誤って巻き込まれれば死亡する可能性があります。
プラント内の高所にあるバルブの操作をする時に落下して死亡するという危険もあります。
発電所はプラントですから、ある程度の現場的な危険は存在していますね。
もちろん各所対策はされていますので、人身事故が起きる事は作業量の割に少ないのではないかと思います。
===「メルトダウン(炉心融解)はどうなると起きるの?」
メルトダウンは日本語で『炉心融解』もしくは『炉心溶融』と言い、文字通り原子炉の炉心、核燃料が異常な高温になって自分の核分裂の熱によって燃料自身が溶けてしまうという状態です。
この状態になるには、
・原子炉配管が壊れたりして水が漏れ、炉内の水が無くなる
・核反応が止まらず冷却が出来ない状態になる
・非常用炉心冷却系などの安全設備・注水設備が全て使用不能である
という条件が必要です。
また、故意に原子炉の出力を異常に上げ、高出力防止の保護装置が全て働かなかった場合にも起こる可能性がありますが、この場合はメルトダウンするよりも先に燃料破損が発生しますし、やはり冷却水が存在する状態ではメルトダウンしませんので、何らかの原因で炉内の水が無くなる必要があります。
要するに『原子炉が空焚き状態になった場合』に、メルトダウンが起こる可能性があるというわけです。
そのために起こらなければならない事故としては、
・原子炉に直接繋がる配管が壊れて原子炉の水が抜けてしまう
+全注水設備注水不可能
・原子炉への給水が停止してしまう
+原子炉緊急停止せず
+非常用注水系も不動作
・原子炉本体が壊れてしまう
+原子炉格納容器も壊れてしまう
(格納容器が健在なら水没させて冷却が可能)
・安全保護設備を全て動作しないように処置を行う
+制御棒をたくさん引き抜き、故意に過大出力を起こす
+その状態を継続する
+注水を行わない
等が挙げられるかと思います。
まぁ、どれも無理やりこじつけたような話になってしまいますが。
なお、原子炉に水を入れるためのポンプは常用、非常用、予備、代替設備など、大小合わせて20台ほどありますので全てが動かないと言う事は考えにくいですね。
ちなみに発電所が停電して非常用ポンプを回すモーターの電源が無くなった場合の為に、非常用のディーゼル発電機が原子炉一基あたり2台もありますし、その発電機が両方駄目だった場合でも、原子炉の圧力を利用して回るタービン駆動の給水ポンプなどもあります。裏技としては隣のプラントから連絡配管を使って、水を回して貰うことなんかもできます。
更に発電所内の高い位置にある水タンクから高低差によって注水するという原始的な手もあります。
また、メルトダウンが起きた場合でも、原子炉格納容器が壊れない限り、外部へ多くの放射能が漏れる事はありません。
(チェルノブイリには格納容器が無かったので漏れたわけですね)
メルトダウンと外部への放射能漏れというのは別問題というわけです。
鋼鉄製の原子炉格納容器を破壊するのは非常に難しいですから、多量の放射性物質が外部に漏れる事故が発生する事は特に国内の軽水炉と呼ばれるタイプの原子炉では非常に考えにくい事だと思います。
ちなみに以前、アメリカのスリーマイルアイランドで起きた放射能漏れ事故では、運転員が故意に格納容器の物理閉鎖を解く操作を行った事が放射能漏れの要因の一端になっているのですが、この事故の経験から物理閉鎖がかかった場合に閉鎖を解く操作をしても安全保護インターロックがクリアしていなければ操作を受け付けないようになっています。
===「原発が発生するCO2(二酸化炭素)ってどのくらいあるの?」
原子力推進の理由の一つに地球温暖化の原因になるCO2(二酸化炭素)の排出が無いということがよく取り上げられています。
確かに原子炉で蒸気を発生させてタービン発電機を回すだけならばCO2の発生量はゼロです。
しかし、原発の建設、点検整備や部品の製造、補助機器の運転等を全てトータル的に考慮すると各過程である程度のCO2が排出されます。
そのため最近では発電プロセス全体を通して見れば原発もCO2を発生するという見方がされるようになってきました。
この見方をした場合、同様にトータルで見た場合の他の発電方式に比べて原子力発電の発生電力量あたりの発生CO2量がどのくらい少ないかという問題が原子力の優位さを論議する上で大きなポイントになってきます。
そこで、1998年に電力中央研究所でこの発電方式別のトータルCO2排出量を計算し、その結果を発表しています。
詳細は電気事業連合会で発行している1998年版の原子力図面集に比較グラフが掲載されています。
このグラフはネット上でも科学技術庁の原子力情報ページに公開されているので、これを見ていただけると良くわかると思います。
このグラフによると、原子力発電のキロワット時あたりのCO2発生量は3〜6グラムとなっています。
これに比べ、火力発電のうちLNGガス火力は178グラム(ただしガス火力は発電効率が非常に良くなってきているので現在はもっと少ないかもしれません)、石油火力200グラム、石炭火力270グラムとなっています。
他に水力5グラム、風力10グラム、地熱6グラム、家庭用太陽光発電16グラムと発表されていますね。
というわけで、このグラフによれば原子力はCO2の発生量の少ない発電方式と言えると思います。
ただし、これらの比較はあくまでも発電についてのお話です。
発電以外の分野でのCO2排出量も十分に考慮しなくては本当の意味でのCO2排出削減には繋がらないかもしれません。
極端な話、自動車はもちろん、焼畑農業もCO2を発生するものですし、タバコの1本だってCO2を排出しますから。
もし世界中が完全に禁煙になったら、CO2排出量が結構減るかもしれませんね(笑)
なお、最近はもっと別の計算方式による評価がされているかもしれませんので、もし更に新しい数値が判明した場合は速やかに各数値を訂正する予定です。
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