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edf077b0 :Anonymous 2012-06-28 01:21
「世界における宗教」
http://ntb.utmc.or.jp/religion-in-the-world.htm

W. E. Mec (訳)E.Minami

概要

古代から近代における各宗教を各宗派にわたって綿密に調査し、その教義と広まっている地域について考察した。また現代の宗教にたいする影響も若干言及した。

1−1 アセンブラ教

アセンブラ教は最も古い宗教のひとつである。
信者は彼ら自身を天に最も近い者たちとして誇りを持っているといわれている。
この宗教の最も大きな特徴は国(Machine)が変われば崇拝する神(Processor/code)も変わるところであろう。
よってこの宗教は典型的な多神教である。
そのため多くの宗派が存在し、互いの争いは絶えない。
特にインテル派とモトローラ派との至烈な抗争は多くの犠牲を出した。
経典は極めて難解である。
新しい神が生まれる度に新しい経典(mnemonic)が作成されるのには、信者たちは大いに狼狽したと伝えられる。
このような風潮に反対するものとして、現在にも影響を与えているのは単一教義とよばれるものがある。
これは異なる神に対しても同じ祈りが通じると言う教えである。
また祈りに用いられる用語があまりに多くなったために、単純な言葉で経典を書こうというリスク(RISC)原理などと呼ばれる有名な原理がある。
さらに余りに経典を読むのに時間がかかるために、経典の一文を長くして複数の僧侶がカノンのごとく経をあげる
Von L.I.Word(VLIW)教会の教えもまた注目される。
このように、アセンブラ教は原始宗教とは言うものの現在でも根強い信者をかかえている。

1−2 フォートラン教

最も古い高級宗教のひとつであり、今だに広く信じられている。
但し、他の宗教徒に猛烈な攻撃を受けていることも確かである。
特にアルゴル派宗教のニクラウス=ヴィルト大司教率いるパスカル教徒は、フォートラン教徒攻撃の急先鋒である。
彼らが最も嫌うのはフォートラン教徒が強盗(GOTO)を奨励しているためである。
大司教はまた麺類(Spaghetti)が大嫌いである。
フォートラン教徒はよろこんで食べるのを彼ははげしいまでの毒舌で批判している。
また偶像(pointer)を許さないところは、偶像を崇拝するシー教徒には許し難いところである。
長い歴史の中でこの宗教の教義は次々拡げられ、たびたびの公会議で標準となる教義が決められている。
最も新しい教義は77(FORTRAN 77)と呼ばれものである。
あまりに、複雑でかつ大規模な教義となってしまったために、
聖書(というか聖典、規格書)をそう簡単に持ち歩くことはできないことは当然であるが、
噂では恐ろしく厚くなった聖書(だから規格書..)の重さに耐えかねて圧死した僧侶がいるそうである。
しかしながら経典集が揃っていることや祈りに対する効果に誤りが少ないことから強く支持する層も広い。

1−3 パスカル教

古代、世の中には盗み(GOTO)が横行していた。
この風潮を苦々しく思ったダイクストラ大司教はその有名な著書「強盗(GOTO)有害論」の中で、生活の正しい指針を示した。
厳格な教義を守るパスカル教徒はダイクストラ大司教の「盗み(GOTO)をしなくても生活は出来る」との教えに従って暮らしている。
この教えを実現したのがパスカル教の始祖たるヴィルト大司教である。
この宗教は祈りの始めと終わりの儀式が大仰(begin/end)である。
祈りの始めに弓({})をかきならすだけのシー教徒には面倒に思われるのがこの儀式である。
この儀式は「何事にも始めに終わりがあるのだ」という信条を表している。
後に大司教は改宗し新たにモデュラ(Modula)教を興したが、この宗教の教義は「何事にも終わりがあるのだ」であって、パスカル教とは一線を画している。
またパスカル教では人を職業(DATA TYPE)によって厳格に分離している。
例えば商人と農民が同じ場所に出入りすることは許されない。
また認められている職業の数が多い事も特徴である。
このように、非常に堅苦しい宗教であるが、経典が比較的分かりやすいことで人気がある。
古くはucsd版の教本が広まっていたが、ボーランド教会の教えが爆発的に信者を増やしたことにより、2回目の隆盛期を迎えたのである。

1−4  シー教

シー教は、マーチン=リチャーズの興したBCPL教に多くの影響を受けている。
ビー教派と呼ばれる中間形態を経て、後の法王デニス=リッチー1世がユニックス共和国の国教としてひろめたのを始めとする中世の宗教である。
この宗教は共和国が領土を広げるとともに信者を増やした。
教義は自由を旨とする。(Free format)
勿論異なる職業の者同士の結婚すら許されている。(union)
しかも、若干の呪文をかけることによって職業を変えることもできるのである。(cast)
さらに「農民を診察する医師の居所を教える職業」などという複雑怪奇な職業すら可能なのである。(pointer)
ただしこの宗教は高級な職業層には余り支持されていなかった。
後にそのような層にも教えを広める為に、少しづつ職業(Data Type)の認可が増えている。
さらにこの宗教の特徴的なことは、聖職者の言う事より「聖なる書(K&R)」が絶対的に正しいとされていることである。
ただし、近代にはアンジ(ANSI)の公会議で教義が加えられたり、唯物指向(Object)論者に毒された新派が現れたりと
「聖なる書(K&R)」の威厳もやや落ちて来たが、まだまだこの宗教は衰えをみせない。
また、祈りは小さな声(small capital)で捧げるのがしきたりである。

さらに、不思議なのは経典をどう発音すれば良いのかが全く判じえないものが多いことである。
特に信者のなかでエレガントな経典であるとの評判の高いものほどその傾向が強い。
従って祈りの捧げかたも十人十色であり、紛争の原因となっている。
なかでも、祈りの最中に魔除けの弓({})をかきならすタイミングは論争の的である。

1−5 リスプ教

古代宗教の最たるものである。経典には波紋((((()))))が頻繁に見受けられる。
運命の分岐(cond)についての教えが有名である。
これによれば、人生のある場面には岐路があり、一方はカーの道他方はクダーの道と呼ぶのである。
その人生の可能性を記述したものが経典となる。
さらに難解な概念が「人間・経典同等原理」である。
すなわち人間は経典であらわされ、経典はまたある人間であるという原理である。
この考えは他の宗教ではみられない。
さらに、信者は寺院にて聖職者との対話で自己を掘り下げるという「対話による自省」を求められる。
このようにユニークな宗教であるリスプ教は、いくつかの地方で熱狂的に支持されている。
ある地方では、この宗教のために国(Lisp Machine)が作られたほどである。

1−6 フォース教

興りはパスカル教とほぼ同時期である。
創始者の占星術師(Astronomer)のムーア博士は既存の宗教にはあきたらずに、自らが教祖となってしまったのである。
寺院にはひたすらに円盤(Stack)を積み上げたり降ろしたりする僧侶がいる。
この円盤が天井に達したときに宇宙は大音響と共に消滅すると伝えられるのだ。

この宗教でもリスプ教同様に僧侶と信者の対話(interpreter)をもとに祈りを捧げる。
恐ろしいことに、経典に書かれている教義に対して、この対話によって産みだされた祈りのほうが正しいとされる。
よって原典の経典集は大変簡単にできている。
この経典にも特徴がある。
他の宗教においては、経典は巻物にされるのが普通であるが、フォース教では一枚一枚の紙に書かれるのだ。

この宗教は未開の地に、いちはやく広めるのに向いている。
新たに大陸が発見されるとまずこの宗教が持ち込まれたことが多い。
「フォースを信じろ」を合言葉に信者たちは伝道にいそしんでいる。
この宗教もまた多数の教義が存在するために、たびたび各派の代表者が会議を開いて、標準となる教義を定めている。
しかしながら、他の宗教の影響を受けては、新たに宗派が生まれるのは防ぎ得ないようである。

1−7 コボル教

コボル教もまた、古い宗教である。
経典にはやたらと物を動かす(move)話がでてくるので、商人階級に人気がある。
この宗教については、廃れそうだが大国の一部でしぶとく生き残っている事以外、知ることはできなかった。

1−8 モデュラ教

パスカル教の流れを汲む比較的新しい宗教である。
パスカル教と一線を画しているのは、祈りの途中で新しく別の祈りを始めたり、またもとの祈りを続けたりすることが出来る点である。
例えば、豊作祈願の祈りと家内安全の祈りを交互にあげることが許されている。
また経典の引用に関しての決まりが、厳密になったのも特徴である。
例えば、

 ・・・というわけで神がお怒りになったのは、
はるか昔のこと以来2度目であった(聖クヌースの手紙1章3節より)。

 ・・・あまりに人間が堕落したために、神は遂に御怒りになられた
(引用可)。

これにより、不法な引用ができなくなったために、都合の良い解釈が防止され、誤った祈りを捧げる恐れが大いに減ったといわれる。
また、パスカル教に比べてさらに公認された職業が増えたのも特筆すべきであろう。

1ー8 スモールトーク教

その名も示す通り、大変騒がしい信者が多い。
なにしろ、家からでることが許されないので、互いの家から大声で話し合うのである。
他の宗教の信者は、用があるときはそこへ訪ねるものだが、彼等の家はほとんど要塞と化しており、声より他は入ることができないのだ。
さらに、その家々を含む町もまた外来者の訪問は一切うけつけない。
さらに、その町の属する国もまた然りである。
この宗教はいくつかの小国で国教となっている以外は見ることは少ない。
しかしながら、他の新しい宗教に与えた影響は大である。

不思議なのは、宗教とはいいながら唯物論(Objective)の立場にたっていることである。
さらに階級制度(class)も発達している。

1ー9 ベーシック教

如何なる理由か、宗教の道に入ったものが最初に出合うのはこの宗教である。
おそらくはマイクロソフト教会の影響であろう。
この宗教ほど宗派、国による差異が大きなものはない。
ある一地方の領主に認められると、その領主の気に入られることなら何でもする節操の無さも有名である。
おかげで、この宗教は政治に口を出すケースが多い。
なかには、この宗教をもって政治としている国(ROM BASIC)さえあるほどであった。
この宗教では前出の旧教マイ クロソフト教会派と新教ボーランド教会の宗教戦争があまりに有名である。

(訳者注)

この論文が発表されて暫くして、新たにサブワン大学の研究者によって、
宗教研究者に有用と思われる論文が発表された。
ここにこの論文を補う部分を引用した。

頻 衛禄
(リスプ教)

この宗教の背景には、ラムダカリキュラスという一種のアニミスムが存在している。
始祖は、ジョン=マッカーシーであり、この人物は“愛”の探求の第一人者でもあって、
リスプ教は愛を真剣に考えるものにとって無くてはならない魂のよりどころである。
リスプ教の道を極めるには、極めて多くの供物を捧げることが必須である。
供物は、聖職者に付き従う“侍仕”が聖職者のためにこれを回収する。
信仰に費用がかかることから、従来この宗教は一部の富裕な特権階級の間にのみ行われる、
一般には縁遠い宗教であった。
近年の全世界的な経済状態の向上によって、各個人の資産(Resouce)も往年とは比べようもないほど増大したため、
ようやく信者が一般にも浸透するようになった。
また、以前は、リスプ教の信者は経典を片時も離さず、時々刻々経典をたよりに道の探求を行うのが常であったが、
近年は修道院の隆盛著しく、ここで青年期に経典の精髄を体得した後は経典を手放して、
より迅速に道を求める生活を送る信者が増えており、現在では修道生活を経験しない信者にはまっとうな聖職者への道は閉ざされている。
教義の分離は著しく、惨状を見兼ねて近年ガイ=スティール=ジュニア司教が指揮をとって公会議が開かれ、
新たな教義がCLtLという書物にまとめられた。
その記述は信者の行いを極めて詳細に規定していながら、あいまいな点も多く、
信者は何をするにもCLtLに伺いを立てなければならなかったので彼等は“顧問”(Common Lisp)派と呼ばれた。
“顧問”のあいまいさを嫌った信者たちは、洗練された隙の無い教義を発展させ、
これは“隙無”(Scheme)派と呼ばれた。隙無派の純粋性を示す特徴として、次のような事実がある。
即ち、ラムダカリキュラスを記述した文章は、ほぼそのままの形で隙無派の経典として使用することができるのである。

(プロローグ教)

論理を重んじる宗教である。
経典には行いを命じる言葉はなく、ただ世界の諸相についての記述(proposition)が書き連ねられているという。
日々の信仰は、この記述に基づいて正しい行いの可能性を探る(Question)ことから構成される。
求道生活には間違いがつきものであり、信者は何度も何度も修業をやり直す(trackback)ことを余儀なくされる。
精進のかいあって、正しい道が見つかると、信者達は“!”と喜びの声を挙げ、これ以上のやり直しが不要であることを誇らしげに宣言する。
プロローグ教もまた愛の探求に適した教えであるとされており、愛を求める哲人達によって、様々な分派が産みだされている。
プロローグ教の修道院制度が発足するまでには時間がかかったが、
ウォレン神父が“抽象的な神(WAM: Warren's Abstract Machine)”と呼ばれる戒律を定めたことによりほぼ完成を見、
還俗後極めて効率のよい生活が送れるようになった。
様々な宗教の聖地であるボーランドにもプロローグ教の教会が建ったが、
ここの聖職者は本来のプロローグ教にはない、職業の分離を説いたため、
一般の信徒には異端視されている。

(訳者補遺)

プロローグ教については、現在も研究が進んでおり、
さらに論文が発表されることが大いに期待される。

初出: 東大マイコンクラブ(UTMC) 1989年新歓部誌 「総何」

再録: UTMC Press 1998 冬コミ号 (NAN the Black)
(c) W.E.Mec, 頻 衛禄, 1989
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